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電力増幅器の非線形特性の解析 ー スプリアス領域(Spurious domain)のレベル検討 ー

 高速ワイヤレス通信では,振幅変動が大きい複数搬送波(マルチキャリア)あるいは多値変調波が使用されるため,特に電力増幅器(HPA)の非線形特性が問題となる.非線形動作時には歪が発生し,通信性能の劣化,帯域外の不要波(スプリアス)発生を招く.非線形特性を避けるために出力をバックオフ(OBO)して線形領域で動作させると,HPA の電力効率が低下し,消費電力が増加する. 特性向上,スプリアス低減,高効率電力増幅を同時に実現するためには,システムの非線形特性であるAM-AM(振幅変調-振幅変調)変換とAM-PM(振幅変調-位相変調)変換を精度よく把握し,最適な動作点を選択することが重要である.

 ITU WRC-03において,無線送信機に対して新たにスプリアス領域が定義され(図1参照),この領域での不要波発射レベルが規定された.  今後開発されるシステムにはこの規定が適用される.

1.電力増幅器の非線形特性に起因する不要波について (Ref. 2,3) 

 図2に送信機でのスプリアス発射要因を示す.この中で,HPAから発生するスプリアスが支配的である.これまで帯域内については干渉軽減の点から十分検討されているものの,信号帯域から離れたスプリアス領域での不要波については, 十分に検討が行われていない. 特にマルチキャリアで運用される場合については,図3に示すように種々のモードが存在するために, 最も厳しい運用状態における不要波発射レベルについては,十分に把握されていないのが現状である.

 

 今回,TWTを用いた実測ならびに解析により, スプリアス領域での不要波レベルを詳細に検討し,最も厳しい運用状態を明らかにするとともに, 複雑なマルチキャリアでの実測を行うことなく, 簡易な測定と解析を併用してマルチキャリア運用時のスプリアスレベルを推測する方法を提案した.

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Fig.1 Definition of spurious domain

Fig.2 Spurious emission from transmitter.

Fig.3 Several transmission modes.

Fig.4 Example of HPA supurious emission

Algorithm for simple spurious emission l

Fig.5 AM-to-AM and AM-to-PM 変換により発生するスプリアスレベルを簡単に推定するアルゴリズム. 点線内はデバイスに依らず,既知の値である.点線外の計算のみを行えばよい. 

2.2周波測定法を用いたワイヤレス通信システムの非線形特性評価法 (Ref. 1)

 通信機器の位相特性を評価する場合,従来ネットワークアナライザやベクトルメータが使用されている.これらの測定器は高価であり,又測定系が複雑であること,中継系のように入力と出力の周波数が異なると測定できない課題がある.簡便な測定法である2周波 (Two-tone)法を用いて,位相変化を測定することなく振幅情報のみでAM-PM変換を精度よく評価する方法並びに非線形特性のモデル化について検討を行い,解析による帯域外スプリアスレベル推定の妥当性を検討した.

 非線形特性評価として,位相変化を振幅情報のみで測定する2周波法を検討し,2周波のレベル差ΔAとして20, 25, 30dBの3種を取り上げ,さらに特性をモデル化する際に5次,7次,9次の多項式近似を行った.振幅変動の大きな256QAM波とOFDM波を近似解析モデルに入力し,出力帯域外のスプリアスレベルをoriginal値と比較検討し,解析の妥当性を評価した.

 2周波のレベル差ΔAのスプリアス領域(Spurious domain)のスプリアスレベルに与える影響は小さく,多項式近似次数については,5次,7次ではSpurious domainの特性を完全に模擬することが難しいが, 9次の近似で精度よく推測できることを明らかにした.

 この結果,測定が容易な2周波法を用いて,振幅情報のみで位相変化を検出し,この特性データを用いて解析によりスプリアス領域を含めて帯域外スプリアスレベルを精度よく推測可能であることを明らかにした.

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OFDM_spurious_OBO.jpg

図6 HPAの非線形特性によるOFDM波のスプリアスレベル  電力増幅器(HPA)のOutput back off (OBO) との関係
 

Keywords:非線形特性解析,HPAの解析モデル,AM-AM変換,AM-PM変換,2周波法,Two-tone method, スプリアス領域(Spurious domain)のレベル推定

Published papers:

  1. 田中 將義,通信システムの非線形特性評価法に関する研究, 第51回(平成30度(2018))日本大学生産工学部 学術講演会,2-24, 計測・制御・情報, ISSN 2186-5647, Dec., 2018. Ref. pdf

  2. Masayoshi Tanaka, Hiroshi Sakamoto, Mitsuo Kobayashi, Yukiharu Kitayama, Estimation of Unwanted Spurious Domain Emissions From a Multicarrier Transmitter, IEEE TRANSACTIONS ON AEROSPACE AND ELECTRONIC SYSTEMS VOL. 50, NO. 3 JULY 2014 Ref. Ref. pdf

  3. Masayoshi TANAKA, Hiroshi SAKAMOTO, Mitsuo KOBAYASHI, and Yukiharu KITAYAMA, Unwanted Emissions of Multi-carrier Transmitter in Spurious Domain, AIAA ICSSC, AIAA 2008-5464,2008 Ref. Ref. pdf

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